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SCOUT講座1 「コンピュータシミュレーションによる光学スペクトル分析」 (8/13)

4. 成功の鍵:光学定数モデル

4.1 あらまし

スペクトルシミュレーションにおける最も重要なステップは, 光学定数の選択です. もし, 調べようとしているサンプル系の物質が, 光学定数ライブラリーデータで表すことができないならば, 関数で記述されたフレキシブルなモデルを用いる必要があります. 多くの物質では, 3 つの基本的な励起タイプで記述可能です.
  • 光の電場によるフリーキャリアの励起:通常, Drude モデルまたはその拡張モデルで記述されます.
  • 振動モードの励起, すなわち分子や結晶格子の分極部位の振動:振動モードは振動子モデルを用いることで考慮されます.
  • 電子遷移系の光学的な内部バンド間遷移:これらの現象は, 結晶材料の場合には振動子項や Tauc-Lorentz モデル, アモルファス系の場合には OJL モデルで記述することができます.

多くの場合, 赤外領域の振動モードと紫外領域の内部バンド間遷移の間に大きなバンドギャップが存在します. その場合, 物質は可視領域でおおむね透明であり, 複素屈折率虚部 (消衰係数:k ) はあっても極わずかで, 複素屈折率実部 (屈折率:n ) が長波長側から短波長に向かって徐々に増加します (正常分散) . 図16に示した例では, 1 ~ 3 eV のエネルギー範囲で, 原理的には, 光学定数を Cauchy の分散式で近似することができます. しかし, もし可能であるならば, 物理的な誘電関数モデルを適用するのがよりよい方法です.
図16図16

4.2 Drudeモデル

フリーキャリアを記述する古典的な Drude モデルは, たった2つのパラメーター, すなわちプラズマ周波数とダンピング係数を持つシンプルな電気感受率で表現されます. もしキャリアの有効質量が既知ならば, 2 つのパラメーター値は, キャリア密度とキャリア移動度 (或いは物質の抵抗率) との直接的な相関が期待できます. 多くの場合, 不純物をドープした半導体や金属では, Drude モデルは実測スペクトルと非常によく合います.
しかしながら, 図17に示すガラス上の ITO ( Indium Tin Oxide ) 膜 (透明導電膜) などでは, 時として単純な Drude モデルが不適当な場合があります. 周波数に依存しない一定の電子のダンピング係数を仮定しているために, 全スペクトル領域でフィッティング状態がよくありません. この場合, 電子の移動度は, イオン化した不純物 (つまりドーパント原子) による散乱で制限を受けます. これは, ダンピング係数に周波数依存性をもたらす効果です.
図17図17

周波数に依存したダンピング係数 (それでも, まだ, かなりシンプルな周波数依存) を持つ拡張 Drude モデルは, フィッティングに著しい改善をもたらし, 膜厚やその他のモデルパラメーター (ギャップエネルギー, 抵抗率など) に対して, より信頼性の高い収束結果を得ることができます (図18) .
図18図18

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