膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

分光光度計の測定データを使った膜厚測定

スペクトル解析ソフトウエアSCOUTを使えば,市販の分光光度計で測定した薄膜サンプルの透過率,反射率,吸収,ATRスペクトルから膜厚測定や光学定数決定をすることができます. 振動子モデルを使って光学定数を記述するため,多種多様な膜材料に対応でき,真空紫外領域からテラヘルツ領域に至る広い波長範囲でのスペクトル解析が可能です. 例えば,透過率と反射率,多入射角反射率など複数の測定スペクトルを同時に解析することで,測定精度を向上させることができます.

誘電体多層膜(ダイクロイックミラー):偏光透過率スペクトルの解析

誘電体多層膜の膜厚解析の例として, ダイクロイックミラー ( Dichroic mirror ) のフィッティング結果を示します. ダイクロイックミラーは, 反射光と透過光がお互いに補色関係になるように, 白色光を色分割する機能を持った膜です. 測定サンプルは, イオンビームアシスト法(IAD: ion-beam assisted deposition)で成膜された SiO2 / Ta2O5 の交互積層膜 29 層で, 45°入射で 570 nm 反射 / 1140 nm 透過になるよう設計されたダイクロイックミラーです. 市販のダブルビーム分光光度計で偏光透過率スペクトルを測定しました [1].

[1] 田所利康:「分光計測の基礎」, 光応用技術シンポジウム Senspec2017(2017年6月8日), パシフィコ横浜 ハーバーラウンジB.

図1は測定偏光光学配置を示しています. 斜入射での測定では, s偏光とp偏光とで異なる透過率スペクトル特性を示します. 本測定では, 45°入射のs偏光透過率スペクトルとp偏光透過率スペクトルの同時フィッティングを行こなうことで情報量の増加と解析精度の向上を図っています. 本スペクトル解析のように, 測定条件が異なる透過率スペクトル同士を併せる解析法は, 測定光路の変更が伴わずにスペクトル情報を増やせることからスペクトルデータの信頼性が高く, 実用的で有用な方法です.

膜厚測定 例1 図1 測定偏光光学配置

図2は測定偏光透過率スペクトル(赤)と設計値から計算されたスペクトル(青)の重ね書きです. 図から分かるように, 斜入射での測定では, s偏光とp偏光とで異なる透過率スペクトル特性を示します. 図2では,測定された偏光透過スペクトルと設計値から計算した偏光透過スペクトルの間に短波長側にシフトするようなズレが生じています.

膜厚測定 例1 図2 ダイクロイックミラーの偏光透過スペクトル(測定値,設計値)

図3 は, 測定透過率スペクトルとフィッティング後の収束したシミュレーションスペクトルの重ね書きです. 図3の設計値と測定値の差が最小になるように,膜厚,光学定数のパラメーターを変化させて,スペクトルフィッティング解析を行います.

膜厚測定 例1 図3 ダイクロイックミラーの膜厚フィッティング解析結果

パラメーター収束値から誘電体各層の膜厚と光学定数を求めることができます.

スペクトルフィッティング解析の詳細については,スペクトル解析ソフトウエア SCOUTの技術資料をご覧ください.

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本解析のように, 29 層にも及ぶ多層膜の場合,各層の n , k , d に何の縛りもなくフィッティングを行うと, 物理的に意味のない局所的な極小点 (ローカルミニマム) に収束してしまい, 正解にたどり着くことが非常に困難です. そのため, 解析では, 成膜装置の癖, 過去のデータ, 他の測定法の結果など知り得る情報を総合して, 解析上の戦略を立てていく必要があります.

本解析では, 次のステップを踏んで最終的な収束結果を得ています.

■ステップ1
全ての層の SiO2 , Ta2O5 は, それぞれ同じ誘電関数モデルで表せるものとした.
膜厚は, SiO2 , Ta2O5 それぞれについて, d = λ/ 4n ( λ = 570 nm ) に各層の係数を掛けたものを初期値として, 各層共通の膜厚パラメーター d SiO2 および d Ta2O5 を設定し,フィッティング変数に加えた.
■ステップ2
フィッティング誤差が十分小さくなったのを確認してから, 各層の膜厚を独立のフィッティング変数とした.
全ての層の SiO2 , Ta2O5 は, それぞれ同じ誘電関数モデルを用いた.

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