膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

吸収があるC60薄膜の膜厚測定,屈折率・消衰係数測定

分光エリプソメーターは,吸収がある薄膜の膜厚,光学定数(屈折率: n ,消衰係数: k )スペクトルの精密な測定が可能です. ここでは,フラーレン(C60)のデバイス用薄膜を例に,膜厚測定,膜の光学定数測定について解説します [1],[2].

[1] 田所利康:「第2章 光学特性の測定原理と測定法 2.5 分光エリプソメトリー(1)」,成形加工,28, 2 (2016) pp62-67.
[2] 田所利康:「第2章 光学特性の測定原理と測定法 2.6 分光エリプソメトリー(2)」, 成形加工,28, 3 (2016) pp102-106.

フラーレン膜の膜厚測定,光学定数スペクトル評価

有機トランジスタ,有機太陽電池などの有機半導体デバイスは,柔軟性と軽量性に富む次世代デバイスとして期待されています. 有機半導体デバイスの性能向上には,結晶性のよい均質な有機薄膜の作製が不可欠であり,有機薄膜の物性を非接触・非破壊に評価することがデバイス性能を追求する上で重要になります [3] . ここでは,代表的な有機半導体材料であるフラーレン C60(fullerene C60)の膜製品をサンプルとして,分光エリプソメトリーを用いた膜厚測定,光学物性評価について紹介します.

測定サンプル(ご提供:株式会社イデアルスター)は,抵抗加熱式蒸着装置で成膜された石英基板上のC60膜で,高感度酸素センサー用に開発されたものです. C60膜は,結晶体でありながら結晶間の隙間サイズが酸素分子や水素分子より大きいため,ガス分子検出に寄与する表面積が大きく,センサーの高感度化が可能です [4] .

分光エリプソ C60膜厚測定1 図1 フラーレン C60の分子構造

[3] H. Oizumi, M. Saida, H. Sagami, K. Omote, Y. Mizobuchi, Y. Kasama, K. Yokoo, S. Ono, and T. Tadokoro, "Noncontact Thickness Monitor of Organic and Molecular Films", The 35th F-NT Sympo. (2008) p.140.
[4] M. Saida, K. Omote, H. Oizumi, H. Sagami, Y. Mizobuchi, Y. Kasama, K. Yokoo, S. Ono, K. Mizokami, and T. Furukawa, "Development of ultra-sensitive gas sensor utilizing fullerenes", The 35th F-NT Sympo. (2008) p.47.

図2にフラーレン C60膜サンプルの層構造と測定配置を示します. フィッティング解析の結果,若干の表面ラフネスを仮定した方がよい収束が得られたため,表面ラフネス層を入れてモデル化しています.

分光エリプソ C60膜厚測定2 図2 フラーレン C60膜サンプルの層構造と測定配置

測定には回転補償子型分光エリプソメーター(J. A. Woollam社製 M-2000UI)を用いました. 測定入射角は,石英基板の可視領域における主入射角(約56°)付近を中心とした3入射角(50°,60°,70°)に設定しました. 測定波長範囲は,245 nm 〜 1700 nmです.

図3に (a) 測定Ψスペクトル, (b) 測定Δスペクトル, (c) 透過率スペクトルとフィッティング解析結果を示します.

分光エリプソ C60膜厚測定3 図3 (a) Ψスペクトル, (b) Δスペクトル, (c) 透過率スペクトルと
各スペクトルに対するフィッティング解析結果

C60の光学定数スペクトルには,図4で示すように,紫外から可視領域にかけて複数の吸収ピークがあります. 本解析で使用したC60膜の誘電関数は,吸収ピークに対応する複素誘電率虚部ε2を1つのLorentz振動子と7つのGaussianモデルを使って記述しています.

また,消衰係数の決定精度向上を目的として,3入射角の分光エリプソメトリースペクトルに0°入射の透過率スペクトルを加え,全てのスペクトルの同時フィッティング解析を行っています. 分光エリプソメトリーのフィッティング解析に透過率スペクトルを付加することは,特に,バンドギャップ付近における消衰係数スペクトルの形状決定に有用な情報をもたらします.

試料の層構造は,Bruggemanモデル [5] を用いた有効媒質近似(EMA: effective medium approximation)の表面ラフネス層を加えて,石英基板上の二層膜としました. 図3 (a) 〜 (c) のフィッティング結果は,いずれも全波長領域でよく一致していて,解析結果の高い信頼性を裏付けています.

[5] D.A.G. Bruggeman: "Berechnung verschiedener physikalischer Konstanten von heterogenen Substanzen", Ann. Phys. (Leipzig), 24 (1835) pp.636-679.

図3の収束結果から,表面ラフネス層の厚さdrough = 2.85 nm,C60膜の厚さdC60 = 304.02 nmが得られました.

図4に,解析によって得られたC60膜の光学定数スペクトルを示します.

分光エリプソ C60光学定数 C60膜の光学定数スペクトル

本例のように,測定波長範囲に吸収ピークがある試料の場合,予め透過吸収スペクトルを測定しておくことが有効で,配置すべき振動子の数や,各振動子の共鳴周波数位置,振動強度,減衰係数などのパラメーターを予想するのに役立ちます. 信頼性の高い透過吸収スペクトルが測定できるのであれば,別途,分光光度計などで測定した透過吸収スペクトルを同時フィッティングに追加して解析を行うのもよい方法です.


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