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構造色とは: 5. 回折

構造色とは

5. 回折

光や音などの波が波長と同程度サイズの障害物と出会った後,障害物背後の影となる領域に回り込んでいく波特有の現象を回折といいます. 波長と同程度サイズの障害物が波長と同程度サイズの間隔で規則正しく並んでいると,回折同士が干渉し合って特定の方向で強め合います.

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5.1 回折とは

回折現象では,波長と障害物のサイズの関係が重要です. 図5-1 は,異なる開口サイズで,開口通過後の回折に違いがあることを示しています. 回折は,障害物のサイズに比べて波の波長が長いほど強く表れます.

図5-1 開口がある障害物による回折
図5-1 開口がある障害物による回折

例えば,花火大会で音は聞こえるが花火はビルが邪魔で見えないといった現象は,波長が長い音は容易にビルの影に回り込むのに対して波長が短い光はわずかしか回折せず光が届かない影を作るからです.

図5-2 波長の長い音は容易にビルの影に回り込む
図5-2 波長の長い音は容易にビルの影に回り込む

光の回折を利用して光を波長順に並んだスペクトルに分ける光学素子を回折格子といいます. 等間隔で平行に刻まれた多数の溝からの回折光が重ね合わされて,反射 / 透過した光が波長毎に異なる特定の角度(回折角)で強められる結果,光はスペクトルに分解されます. 図5-3 に示した回折格子では,奥行き方向に伸びる細い円柱状の障害物が波長に近い間隔 d で規則正しく並んでいます. 回折格子では,それぞれの障害物を中心に回折光が円筒状に広がりますが,隣り合う障害物が発する回折光同士の位相差がちょうど波長の整数倍になる方向で,波の山同士/谷同士が一致して強め合う干渉をします. この回折光が強め合う出射角度は回折角と呼ばれます. 回折角は,図中の式のように,光の波長 λ と格子間隔 d で決まります. m 波長分の光路差で回折する光を m 次回折光(高次回折光)と呼びます. 1 次回折光が最も強く,高次回折光ほど弱くなります.

図5-3 回折格子
図5-3 回折格子

格子間隔 d が一定ならば,回折角の大小は波長順に並びます. 図5-4 は,青色レーザー(405nm),緑色レーザー(532nm),赤色レーザー(650nm)それぞれについて透過回折格子を使った回折像を撮影し,ソフトウエアで画像合成したものです. 赤の回折の左右外側に見えているのは2次回折光です. 回折格子の代表的な応用は,白色光をスペクトルに分解して単色を取り出す分光器です.

図5-4 回折格子によるスペクトル分解
図5-4 回折格子によるスペクトル分解

→ 執筆書籍紹介|『ビジュアル解説 光学入門』

5.2 イリスアゲート

火成岩や堆積岩の空洞内部に,二酸化ケイ素を主成分とする石英,玉髄(石英の微結晶が緻密に固まった鉱石),オパール(遊色をもつ非晶質な含水ケイ酸鉱物)などが層状に沈殿してできた鉱物をメノウ ( 瑪瑙,agate ) と呼び,イリスアゲート ( iris agate ) はその一種で,沈殿でできた層構造の回折によって,透過光が虹色に怪しく輝きます.

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図5-5 イリスアゲート
図5-5 イリスアゲート(ご協力:石華工匠 堀石 廉 氏)

5.3 光ディスク

CDやDVDを光にかざすと図5-6 のように虹色に輝きます.CDなどの光ディスクでは,音や画像を記録するピットが,光の波長程度の間隔で,ディスクの半径方向に規則正しく並んでいて,個々のピットで回折された光が足し合わされて,強め合う条件に合った波長の光が輝く色を作ります.

図5-6 光ディスクの回折
図5-6 光ディスクの回折

CD-RやDVD-Rの場合,有機色素の記録層を境にアルミコーティングを剥がすことができ,ディスクの背面から透過配置でライティングしてやると,図5-7 ,図5-8 に示す円形の回折像を見ることができます.

図5-7 CD-Rの回折像
図5-7 CD-Rの回折像
図5-8 DVD-Rの回折像
図5-8 DVD-Rの回折像

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5.4 クラゲの繊毛

ある種類のクラゲの仲間は,体の表面にある櫛板(くしいた)と呼ばれる細かな繊毛を動かして泳ぎます. 櫛板が波打つように動くところに光が当たると,細かな繊毛の回折によって虹色に輝いて見えます.

図5-9 シンカイウリクラゲ
図5-9 シンカイウリクラゲ
図5-10 キタカブトクラゲ
図5-10 キタカブトクラゲ

5.5 珪藻

珪藻の殻は無色透明なシリカでできていますが,殻に微細な周期構造があるため,白色光の暗視野照明(試料の散乱光を観察するための斜め入射照明)で顕微鏡観察すると,鮮やかな回折色・干渉色を示すものがあります.

図5-11 珪藻
図5-11 珪藻(ご協力:ミクロワールドサービス 奥 修 氏)

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5.6 カーテンが作る 2 次元回折像

のぼり旗やカーテンなどの布は,基本的には,経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が規則正しく並んだ構造をしています. そのような布を透して光を見ると,布の 2 次元的な周期構造によって, 2 次元に広がった回折像を観察することができます. 写真は,ビジネスホテルにありがちな目の粗い格子状のカーテンとそのカーテン越しに撮影した夜景で,光源を中心にスペクトルに分かれた 2 次元回折像が確認できます. 2 次元回折像の広がり具合は,格子状の糸の間隔で決まります.

図5-12 ホテルにありがちなレースカーテン
図5-12 ホテルにありがちなレースカーテン
図5-13 カーテンが作る 2 次元回折像
図5-13 カーテンが作る 2 次元回折像

図5-3に示した回折角の条件式から分かるように,目の粗いカーテンでは格子間隔 d は相当大きな値になるので,回折角は小さく色の分離はよくありません. 例えば, d = 3mmとすると,波長 500nm での回折角は 0.01 ° 程度です. 図5-13 を撮影するときには,カーテンからできるだけ距離を取り,焦点距離が長い望遠レンズを使って撮影することでカメラ結像面上における回折像の大きさを稼いでいます.

5.7 白色LEDの 2 次元回折像を使った壁面装飾

白色LED光源と透明な 2 次元回折格子フィルムを組み合わせた壁面装飾です. 2 次元回折像が発生するしくみは「5.6 カーテンが作る 2 次元回折像」と同じですが, 2 次元回折格子フィルムの格子間隔 d が狭いので,近くで見ても大きな 2 次元回折像になります.

図5-14 白色LEDの 2 次元回折像を使った壁面装飾
図5-14 白色LEDの 2 次元回折像を使った壁面装飾

5.8 液晶ディスプレイ ( LCD ) の微細な画素構造が起こす回折

液晶ディスプレイ ( LCD ) の内部には,微細な画素が規則正しく敷き詰められています. 図5-15,図5-16 はノートPCのディスプレイに映った電灯の周りに各画素の電極構造に由来する回折像が発生しているようすです.

図5-15 液晶ディスプレイ ( LCD )の微細構造による回折像
図5-15 液晶ディスプレイ ( LCD )の微細構造による回折像
図5-16 液晶ディスプレイ ( LCD )の微細構造による回折像
図5-16 2次元回折像の拡大

図5-16 の回折を起こした液晶ディスプレイを顕微鏡で拡大すると,図5-17 のような画素構造が確認できます.

図5-17 液晶ディスプレイ ( LCD ) の電極構造の顕微鏡拡大
図5-17 液晶ディスプレイ ( LCD ) の電極構造の顕微鏡拡大

図5-18 に示すように,画素構造が異なる別の液晶ディスプレイだと違う回折パターンになります.

図5-18 液晶ディスプレイ ( LCD ) の微細構造による回折像 2
図5-18 液晶ディスプレイ ( LCD ) の微細構造による回折像 2

5.9 花粉光環

花粉が大量に飛散している晴れた日には,図5-19のような花粉光環が見られる場合があります.

図5-19 花粉光環1
図5-19 花粉光環

花粉光環は,花粉粒子の回折によって引き起こされる現象です. 花粉粒子は微小な球形ですので,入射する太陽光に対しては小円板の障害物になります. 小円板が起こす回折は,円形開口の回折と同じ回折像を作ります(バビネの原理).

図5-20に円形開口による白色LEDの回折像を示します. 砲弾型白色LEDの先端を平坦に切り落として研磨して光源としています. 白色LEDの発光面は,φ1mmで円形開口と見なせるため,5m程度の距離から望遠レンズで白色LEDの発光面を撮影すると,図5-20の回折像が得られます.

図5-20 花粉光環2
図5-20 円形開口の回折像

図5-21に,図5-19の花粉光環と図5-20の円形開口の回折像を比較します. 図5-21では,円形開口の回折像が花粉光環と同じサイズになるように図5-20の回折像のサイズを調整しています. 太陽光と白色LED光では,スペクトル成分が違うため同じ色調にはなりませんが,花粉光環は円形開口の回折像と同じ色の並びをしていることが確認できます.

図5-21 花粉光環3
図5-21 花粉光環と円形開口の回折像との比較
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