膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

膜厚測定・干渉分光法とは: 2. 薄膜干渉の基礎

干渉分光法とは

2. 薄膜干渉の基礎

光は「重ね合わせの原理」に従います. つまり, 二つあるいはそれ以上の光波がある時刻,空間のある点で出会うと,合成される光波は, 個々の成分波のベクトル和で表されます. 薄膜による干渉の場合, 膜表面からの反射光と膜内を往復してくる膜裏面からの反射光の重ね合わせによって干渉状態が決定され,測定スペクトルには干渉フリンジ(干渉による波長ごとの強め合い / 弱め合い)が観測されます.

2.1 薄膜干渉とは

ここでは, 薄膜干渉の概念図を使って, 干渉によって生ずる位相差と干渉条件について復習していきましょう. 図2-1 は,厚さ d の透明な自己保持膜 ( n = n f , κ = 0 ) に, 入射角 θi で光が照射された場合の光の伝搬をモデル化したものです.

図2-1 構造色を発現する周期構造
図2-1 薄膜中の光の伝搬と干渉

図2-1(a) は入射直後の光の進行状態, 図2-1(b) は図2-1(a) で発生した屈折光が膜内を往復した後の光の進行状態を図示しています. 縞状の濃淡は入射光が平面波状のビームであることを表しており, 平面波上の点線は同位相面, 点線間の距離は媒質中の波長を表しています. なお, 説明図を簡略化するため, 薄膜内を複数回往復する高次の干渉光は省いて描いてあります.

左上空の空気中から入射された平面波は, 界面 I (空気-膜界面) で一部反射し, 反射角 θr 方向に進みます (反射の法則: θi = θr ).
一方, 反射しなかった残りの平面波は, 界面 I で屈折して膜媒質中を屈折角 θt 方向に進行します. 屈折角 θt と入射角 θi は, n f sin θt = sin θi の関係があります. これが,よく知られたスネルの法則 ( Snell's law ) です. 膜媒質中を進む平面波の波長 λf および速度 v f は, 真空中の 1 / n f になります. 入射ビームが空気-膜界面を通過する時に, 平面波の進行速度が変化するため, 屈折界面において波面が折れ曲がります.

図2-1(b) に示すように, 膜の裏面に到達し界面 II (膜-空気界面) で反射した平面波は, 膜を往復して再び界面 I を透過し, 表面反射光と重ね合わされた状態で空気中を右上方へと伝搬していきます. なお, 図2-1(b) では, 説明の便宜上, 表面反射光と裏面反射光を空間的にずらして図示してあります. 膜の往復分余分に進んできた裏面反射光と表面反射光との光学距離の差は, 幾何学的な作図から容易に計算でき, 2 n f d cos θt と求めることができます. つまり, 斜入射の場合の光学膜厚は n f d cos θt であり, 膜を一回通過すると, (2-1) 式の位相変化が起きます. β は.位相膜厚 ( film phase thickness ) と呼ばれます.

(2-1) 式

界面における反射位相はフレネル ( Fresnel ) の反射係数の符号により変わるため. 入射角がブリュスター角 ( Brewster angle ) より高い場合と低い場合, 高屈折率媒質から低屈折率媒質に入射する場合と低屈折率媒質から高屈折率媒質に入射する場合で, 反射による位相のずれ方が異なります. 通常の分光測定はブリュスター角より低入射角で行われるため, 空気-膜界面における表面反射では位相が π ずれ, 膜-空気界面での反射では位相ずれが生じません. つまり, 膜の往復により生じる位相差 2 β が π /2 の奇数倍の時には同位相面が重なり合って強め合う干渉となり, 位相差 2 β が π /2 の偶数倍の時には光路差が λ / 2 ずれて重なり合うため弱め合う干渉となります. この反射光における干渉条件をまとめると次式になります.

(2-2) 式

2.2 振幅反射係数,振幅透過係数

光が媒質界面に出会ったとき,どのような振幅比で反射光 / 透過光に分割されるかを表すのが振幅反射係数,振幅透過係数です.
異なる屈折率を持つ媒質の界面で光が反射 / 屈折するとき,媒質境界面に平行な電場成分と磁場成分は,境界面を越えても連続であり,界面における反射 / 屈折の前後で光が増減することはありません. この境界条件から,入射光がどのような割合で反射光,透過光に振り分けられるかが決まります. 図2-2 は,入射光,反射光,屈折光の電場ベクトルおよび磁場ベクトルのようすを示したものです.

図2-2 媒質界面における電場および磁場の境界条件
図2-2 媒質界面における電場および磁場の境界条件

図2-2(a) が p 偏光,図2-2(b) が s 偏光です. 図中,(a) の磁場 B と (b) の電場 E は,紙面奥から手前に向かっています. 図2-2 の p偏光, s 偏光それぞれについて,入射媒質中の入射光と反射光の電場水平成分の和は透過光の電場水平成分に等しく,入射媒質中の入射光と反射光の磁場水平成分の和は透過光の磁場水平成分に等しくなります. つまり,電場と磁場に関する境界条件は,次の式にまとめられます.

(2-3) 式〜(2-6) 式

屈折率 n の媒質中では E = cB/n が成り立つことを使って,これらの境界条件から B 成分を消去します. 次に Etp を消去すれば, p 偏光, s 偏光それぞれの反射振幅,透過振幅を表す次式が得られます.

(2-7) 式〜(2-10) 式

ここで, rp は入射 p 偏光の電場振幅 Eip に対する反射光の電場振幅 Erp の比であり, p 偏光の振幅反射係数 ( amplitude reflection coefficient ) と呼ばれます.同様に, tp は p 偏光の振幅透過係数 ( amplitude transmission coefficient ) , rs は s 偏光の振幅反射係数, ts は s 偏光の振幅透過係数です. これらの式は,フランスの物理学者フレネル ( Augustin Jean Fresnel ) の名に因み,フレネルの式 ( Fresnel equations ) ,フレネル係数 ( Fresnel coefficient ) とも呼ばれます.

2.3 自己保持膜の振幅反射係数 / 振幅透過係数

反射光 / 屈折光の出射角度は反射の法則と屈折の法則によって決まり,反射光 / 屈折光の振幅はフレネル係数で求まります. これで,薄膜サンプル中における光の振る舞いを正確に記述することができるようになりました. ここでは,図2-3 のように,屈折率 n 0 の媒質中に支持基板なしで存在する屈折率 n 1 の膜(自己保持膜)を例に,膜内で起こる多重反射について考察しましょう.

図2-3 自己保持膜の多重干渉
図2-3 自己保持膜の多重干渉

自己保持膜の代表例は,シャボン玉です. 空気(屈折率 n 0 )から薄膜(屈折率 n 1 )に入射する場合の振幅反射係数 / 振幅透過係数を r01,t01 ,逆に薄膜から空気に入射する場合の振幅反射係数,振幅透過係数をそれぞれ r10,t10 と表すことにします.

さて,図2-3 で,振幅 1 の光が左上方より入射角 θ0 で薄膜に入射されたとしましょう. 入射光は,界面 1 に出会うと一部が反射され振幅 r01 の反射光(これを 0 次反射光と呼びましょう)を形成し,残りの光は界面を透過し振幅 t01 の透過光となります. 透過光は膜内を進み,界面 2 に出会うと,さらに反射光と透過光に分割されます. その後は,透過光が界面に出会う度に,反射光 / 透過光に分配されながら,膜内を多重反射していきます. 我々が観測する反射光とは,膜内を多重反射した結果生じる全ての反射光を足し合わせたものです.

ここで,膜内を 1 往復してくる反射光( 1 次反射光と呼びます)の振幅に注目しましょう. 振幅 1 の入射光が界面 1 の透過によって振幅が t01 倍されます. 膜内を進み界面 2 の反射によって,その振幅は r10 倍され,さらに,界面 1 の透過で,その振幅は t10 倍されます. その結果,1次反射光の振幅は t 01 r10 t10 になります.

図2-3 に示す 1 次反射光の振幅に掛けられた exp (-i 2β ) は位相項です. β は,(2-1) 式に示した位相膜厚です. 膜内を 1 往復する 1 次反射光は, 0 次反射光に対して,余分な光路長を走る分だけ位相が遅れます. 光が膜を一回通過するときの位相遅れを β として, 1 次反射光の位相項 exp (-i 2 β ) は,光が膜内を 1 往復する間に位相が 2 β 遅れることを表す複素数です.

位相を含めた振幅反射係数を複素振幅反射係数と呼びます. 全ての高次の反射光に対して同様の振幅計算を行い,それらを全て足し合わせることで,多重干渉が含まれた反射光の p 偏光, s 偏光それぞれの複素振幅を求めることができます.

(2-11) 式〜(2-12) 式

複素振幅係数の絶対値を二乗する(複素共役同士を掛け合わせる)ことで,光強度を求めることができます. (2-11) 式から, p 偏光反射光の電場振幅は,

(2-13) 式

と表せて, p 偏光反射光の強度は, (2-14) 式のように求まります.

(2-14) 式

同様に, s 偏光の反射光強度を求めておけば,自然光の反射光強度は,それぞれ, p 偏光と s 偏光の反射光強度の平均 Ir = (Irp +Irs ) / 2 として求めることができます. 透過光強度も同様の手順で求めます.

(2-15) 式,(2-16) 式

2.4 基板上の一層膜の振幅反射係数 / 振幅透過係数

実際の薄膜試料はもっと複雑な層構造を持ちますが,上記のような複素反射振幅係数計算を界面の数だけ繰り返すことで,全ての経路の反射光を足し合わせてトータルな反射光の振幅を求めることが可能です. 図2-4 に基板上の一層膜モデルを示します.

図2-4 基板上の一層膜モデル
図2-4 基板上の一層膜モデル

図2-4 の一層膜モデルで,全ての反射光束を足し合わせることで反射干渉光が求まり,全ての透過光束を足し合わせることで透過干渉光を表すことができます.一層膜モデルの振幅反射係数 r012 ,振幅透過係数 t012は,次のように表されます.

(2-15) 式,(2-16) 式

振幅反射係数 r012 ,振幅透過係数 t012の絶対値を二乗すれば光強度,p 偏光と s 偏光の反射光強度の平均,透過強度平均をとれば自然光の反射光強度,透過光強度が求まります.

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