膜厚測定,分光測定,分光エリプソメトリー,スペクトル解析のテクノ・シナジー

膜厚測定・干渉分光法とは: 3. 干渉スペクトル

干渉分光法とは

3. 干渉スペクトル

ここでは,サンプル膜の膜厚変化や屈折率変化がスペクトル形状にどのような影響を及ぼすかを見ていきましょう. 干渉スペクトルを見たときに,どの程度の屈折率の膜がどのくらいの厚さでつけられているのかを想像できるようになると,正解に近い初期値から解析をスタートさせることができます.

3.1 膜厚の増加で干渉スペクトルはどう変化するのか

まず,膜厚の増加に対するスペクトル形状の変化を見ていきます.
図3-1 は, 膜厚の異なる BK7 基板上の SiO2 膜に対して,0°入射の反射率スペクトルシミュレーション結果です. BK7基板の裏面反射はないものとして計算しています. 膜厚が薄い (a) から順に見ていきましょう.
SiO2 膜の膜厚が 0 の場合は, BK7 基板そのものの反射率になります. BK7 と SiO2 の屈折率を比べると,波長 633nm において BK7 :1.52, SiO2 :1.457 と SiO2 の方が屈折率が低いため, SiO2 膜が付くと BK7 基板より反射率が低下します. SiO2 膜が 20nm 付いた状態では,短波長側から反射率が低下していくのが分かります. (b) 膜厚: 50nm では,短波長側から干渉フリンジの谷が現れます. (b) 膜厚: 50nm → (g) 膜厚: 50nm 膜厚が増加するにつれて,干渉フリンジの谷,山,谷 ・・・ が短波長側から次々に現れて,干渉フリンジの振幅の間隔が次第に狭まっていきます.

図3-1 膜厚の増加に対する反射率スペクトルの形状変化
図3-1 膜厚の増加に対する反射率スペクトルの形状変化

ここで注目して頂きたいことは,干渉フリンジの山側のエンベロープは BK7 の反射率スペクトルに一致していることです.つまり,干渉フリンジの山側は基板の屈折率で決まり,干渉フリンジの振幅は基板の屈折率と膜の屈折率の差で決まっているのです. これは,基板の屈折率,膜の屈折率が分かっていれば,測定される反射率範囲が予測できるということに他なりません.

3.2 膜屈折率で干渉スペクトルはどう変化するのか

次に,膜の屈折率が変化した場合に,反射率スペクトルがどのように変化するか見ていきましょう. ここでは, BK7 基板上の膜厚: 100nm の屈折率が異なる透明膜を仮定し,0°入射の反射率スペクトルをシミュレーションしています. (3-1) 式,(3-2) 式に示す Cauchy の分散式の変数 B = 0.0044 ,変数 C = 0.0000 に固定し,変数 A の値を変えて膜の屈折率を変化させています( Cauchy の分散式については,「8.1 Cauchyの分散式」をご参照ください). この変数設定の場合,変数 A の値に約 0.011 足すと波長: 633nm の屈折率になります.

(3-1) 式,(3-2) 式

最初に,膜の屈折率が BK7 基板の屈折率より低い場合を図3-2 に示します.

図3-2 膜屈折率変化に対する反射率スペクトルの形状変化 1
図3-2 膜屈折率変化に対する反射率スペクトルの形状変化 1

基板の屈折率と膜の屈折率の差が大きいほど,干渉フリンジの振幅は大きくなります. 膜の屈折率と基板の屈折率との差がわずかしかない A = 1.5 の反射率スペクトルは,基板の反射率スペクトルと極めて近いカーブ形状になります. 膜の屈折率が低下するように A 値を下げていくと,次第に干渉フリンジの振幅が大きくなっていきます. A = 1.45 辺りがSiO2 膜相当の反射率スペクトル, A = 1.38 辺りがMgF2 膜相当の反射率スペクトルです. さらに, A 値を下げていくと A = 1.23 で干渉フリンジの谷の反射率が 0 に達します. このとき,反射率 0 となる波長での膜の屈折率はBK7基板の屈折率の平方根に等しくなります. この膜の屈折率と基板の屈折率の関係を完全反射防止の振幅条件といいます.
図3-2 で, BK7 基板の屈折率より膜の屈折率が低ければ,膜の屈折率の値にかかわらず,干渉フリンジの山側のエンベロープは BK7 の反射率スペクトルに一致していることが確認できます.

次に,膜の屈折率が BK7 基板の屈折率より高い場合を図3-3 に示します. 図3-3 では,図3-2 と縦軸スケールが異なることに注意してください.

図3-3 膜屈折率変化に対する反射率スペクトルの形状変化 2
図3-3 膜屈折率変化に対する反射率スペクトルの形状変化 2

膜の屈折率がBK7基板より高い場合,干渉フリンジは, BK7 の反射率スペクトルより高反射率側に現れます. この場合も,基板の屈折率と膜の屈折率の差が大きいほど,干渉フリンジの振幅は大きくなります. 次第に屈折率が高くなると,干渉フリンジの振幅が増加するのと同時に,干渉フリンジが長波長側にシフトしていきます. 図3-1 で確認したように,膜厚の増加と共に干渉フリンジの山谷の数は増加し干渉フリンジは長波長側にシフトしますが,ここでいう膜厚は物理的な膜厚ではなく光学膜厚(物理膜厚 × 屈折率)です.
BK7 基板の屈折率より膜の屈折率が高い場合は,膜の屈折率の値にかかわらず,干渉フリンジの谷側のエンベロープは BK7 の反射率スペクトルに一致していることに注意してください.

3.3 屈折率と反射率の関係

図3-2 , 図3-3 で示したように,膜の屈折率にかかわらず干渉フリンジの山側 / 谷側どちらかのエンベロープは基板の反射率と一致します. ということは,基板の屈折率を知っていたとして,反射率を概算することができれば,測定している干渉スペクトルが基板より高い屈折率の膜によるものか,基板より低い屈折率の膜によるものか予想することができる訳です.
ここでは,屈折率から反射率を概算する方法を説明します. 空気- BK7 基板界面の反射率を概算してみましょう. BK7 基板の屈折率を n として,第2回で説明した振幅反射係数 (2-7) 式で,空気の屈折率を n i = 1 , 0 °入射を仮定して θ i = 0 °とすると(3-3) 式が得られます. θ t はスネルの式を使って消します. さらに,BK7 基板は透明なので, κ = 0 とすると, (3-4) 式のように簡単な式になります.

(3-3) 式,(3-4) 式

BK7基板の波長 633nm における屈折率 1.52 を代入してみましょう. BK7基板に入射角 0 °で光を入れたときの反射率は,約4.3%と計算できます. 概算反射率が正しいことを,図3-2 で確認してください.
吸収がある基板の場合, (3-3) 式を使って反射率を概算します. 例えば,結晶シリコンの場合,波長 633nm における複素屈折率 n = 3.881 , κ = 0.018 [1] を代入すれば,おおよその反射率を約34.8%と見積もることができます.

[1] E.D. Palik (editor):"Handbook of Optical Constants of Solids", Academic Press, New York (1985).

このように基板の反射率が概算できれば,干渉フリンジが基板より上なのか下なのか,またどの程度干渉フリンジの振幅が大きいのかで,膜の屈折率がおよそどの程度であるか当たりを付けることができるのです.

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